ここのところ、齋藤兵庫県知事の問題で兵庫県政は大きく揺れている。先日、旅行に行
ってきたが、自民党総裁選の次に兵庫県政が全国ニュースで報じられているのを見て改めて驚きを禁じ得なかった。もはや、全国的に見た地方自治のあり方の問題に発展している。
この問題が今後どのように展開していくのかは、解らないが、直感的には、日本の将来の地方自治、民主主義に大きな影響を与える出来事になっているのではないかと思う。現時点(2024年9月13日)では、不信任決議→議会解散or知事の失職あたりまでが流れとして出来ている様子だ。齋藤知事がこのようなメンタリティの持ち主だとあらかじめ解っていたら、彼に投票する人は少なかっただろう。しかし、2021年選挙は、齋藤圧勝だった。あのときの結果は、斎藤(自民・維新推薦)(858,782)(46%)、金沢(立憲民主支援)(600,728)(32%)で、26万票の大差がついている。また、私も含めて、多くの人が県政の刷新を若き斎藤氏に期待したと言えよう(詳しくは、当時の私の投稿参照)。
事実の正確な情報は引き続き、百人委員会、第三者委員会で徹底して明らかにして欲しい。また、詳しい政局の動きや情報収集収集等は、マスメディアにお任せするとして、前にも書いた兵庫県庁組織の体質上の問題を取り上げたいと思う。
以下、2021年のブログ引用。
「公選知事になってからの兵庫県知事は、岸田、阪本、金井、坂井、貝原、井戸と続くわけですが、金井知事(1962-1970)以降は、自治制度官庁(内務官僚)→副知事→知事という流れが実に59年にもわたって続いてきたという驚くべき数値があるのですが、この流れがいったんここで断ち切られたという歴史的な意義もあると思います」。
あの時は、とりあえず一歩前進として、あえて書かなかったが、副知事への禅譲が途絶えたものの、齋藤知事も入れると自治制度官庁出身者が連続して知事をしている状態は、金井知事以降、62年となる。これは、既に、多くの方が指摘されているように、47都道府県の中でも兵庫県が例外的なものとなっている。ちなみに、現在の都道府県の知事の経歴については、「現在、47都道府県のうち官僚出身知事は25もあり、そのうち11は総務(自治制度官庁)官僚出身者で、そのうちの一人は斎藤知事」ということで、全都道府県と政令市の経歴一覧は下記に詳しく掲載されている。
さて、詳しい分析は、調査してみないと解らないが、元兵庫県職員として、また、行政学者として、いろいろと考えるところがある。当面の課題と言うより、むしろ歴史をさかのぼってこの組織の特徴について、今のところ、以下のような仮説が成り立つのではないかと思われ、雑感を含めて示す。
- 兵庫県の地勢的特殊性
もともと兵庫県は、阪神間を除いて、ほとんどの地域が農山漁村地帯であった。明治政府は、廃藩置県の時に、神戸港という開港場として高いポジションを持つ自治体の財政力等を考慮して、摂津の一部(神戸以東の阪神間)を大阪府から切り取った。このよう中で、広大な農山漁村部は投票率も高く、保守の地盤であったし、今もそうである。このあたりは、たまに芸能人が当選したりする隣県の大阪府などとは根本的に状況が異なる。
- 自治制度官庁出身者の知事のはじまり
かつては、革新県政であった阪本知事(元新聞記者、国政政治家)は、金井氏(内務省、青森県官選知事、参議院議員)を副知事として迎え入れた。金井氏は、阪本退任後兵庫知事選に出馬し、当選する。ここで、旧内務省出身者を副知事にし、当該副知事が知事になる流れが出来る。ただし、金井知事までは、すべての知事が2期8年で退任している。ちなみに、金井知事は、優生保護思想の推進者(出典:神戸新聞)として有名である。
- 流れの定着化
流れが定着し始めるのは、坂井県政の時であった。坂井知事は、選挙では結構厳しい戦いを強いられている(高野圭介氏ウェブページ)。対抗馬がもう少し上手な戦略を立てていれば、どうなっていたか解らない。その意味では、このあたりで特に偶然性が働いていると言える。さらに、坂井知事は、対抗馬を応援した県職員等に人事上の厳しい措置行ったと聞いているので、この時期に職員のメンタリティに大きな変化が芽生えていったのではないかと推測できる。また、坂井知事は前例に反して、4期16年を勤め、次の貝原知事も4期続ける。次の井戸知事の5期20年は、明らかに長すぎ、先述したように維新の齋藤知事誕生を結果として許してしまう。
- 兵庫県庁の体質
兵庫県庁を巡る体質が古いというメディア報道について。私は、もともと兵庫県庁に20年間在籍した経験を持つ。権力の中枢にいたわけではないし、比較対象として他の自治体で働いた経験もない。外部の委員等として様々な自治体とおつきあいする限り、役所の共通体質というものはあるように思う。また、日本の制度からすると知事に限らず基礎自治体も含めた自治体の首長の権限は極めて大きい。特に、人事権と予算権をテコとして、組織内外に対しては、独裁的に振る舞える権限を持っている。その意味で、今回の齋藤県政が特異であるとは必ずしも言えない面もあるように思う(もちろん、この若さで知事になるのは、自治制度官庁でも異例であり、2021年発当選時に維新のバックアップがあったことが大きい)。
- 終身雇用を巡る問題
海外の中央省庁や自治体に調査で良く出かけた。基本的には、昇進は外部との競争になる。また、有能な人は、他の条件の良い自治体に公募で移っていく。例えば、イギリスでもそうであるが、行政のトップであるチーフエグゼクティブクラス(chief exective)の人はきわめて優秀だ。日本の終身雇用型システムは、役所だけの問題ではなく、大企業も同じであり、時として強みを発揮するが、悪くすると村社会のような封建的な体質になってしまう。また、民間企業で経営戦略、マーケティング、IT関係などをやっている人と比べると自治体では、他組織に移動していくのは難しい。外国と日本のどちらのシステムが優位とは簡単には言えないが、今回のような事態に対しては、明らかにマイナスに働くのではないか。
(本投稿は、9月13日で有り、その後、予想外の大きな動きがあったので、一部修正しました。今後、詳しく分析したものを掲載する予定です)。
学術的な参考文献は下記の通り
*戦後の内務・自治官僚の地方への転身を国家保守主義と位置づけ、かなり細かなデータベースを作成している。
*地方分権改革に関して、中央からの出向職員の実態をかなり詳しく分析している。そこでは、1980年代に入って都道府県は自前の専門的職員の養成を達成したため、自治制度官庁からの自治体への出向者(知事ではない)は、県から市町村に移行していったことが示されている(p.84
- 金井利之(2018)『行政学講義-日本官僚制を解剖する』
*戦前においても、政党政治が高文官僚の中に閥(例えば、「山県閥」)を作り、政治見習いを育成するなどのことを行った(p.38)。
*勅任官→親任官→奏任官(以上あわせて、高等官)→判任官(以上あわせて、官吏)→公吏・吏員(以上あわせて、官公吏)→雇員・傭人・嘱託、という戦前の身分序列が戦後においても、キャリア、ノンキャリアという形で継続されたという、インクレメンタリズム、制度の粘着性を紹介している(pp.206-216)。