公共政策研究室

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アンゲラ=メルケルの残したもの


ドイツ連邦の首相アンゲラ=メルケルが2021年12月に退陣した。16年間という長期間、ドイツ連邦の首相を務めたことになる。彼女が退任式で選んだ3つの曲のうち1つは、パンクロックで有名なニナロックのヒット曲「カラーフィルムを忘れたのね」が人びとを驚かせた。この曲は、1970年代の東ドイツの大ヒット曲であり、東ドイツの自由のない体制を暗に批判した曲として有名である。

メルケルは、西ドイツに1954年に生まれ、すぐに東ドイツに移住して育った。物理学者を目指していたが、ベルリンの壁が崩壊した1989年に政治家の道に転じた。

NHKが2022年4月18日に放送した番組のインタビューでメルケルは次のように語っている。「民主主義は常にそこにあるものではなく、私たちが勝ち取っていくものだ」。

これは、ベルリンの壁崩壊に至る東ドイツの勇気ある市民の様々な抵抗活動とその時代に青春時代を過ごした経験から出た重みのある言葉として捉えられるであろう。メルケルの政治家としての特徴は、①調整者、②冷静さ、③女性の地位を引き上げたこと、④2015年における中東移民の受け入れ決定、⑤2011年の福島の原発事故を受けた原発廃止決定などに代表される。一方で、将来の大きなビジョンを示すことがなかったことなどが指摘されている。

退任式での「カラーフィルムを忘れたのね」を聞きながら流した涙は、自由の尊さ、民主主義の重要性、女性リーダーとしての苦労などが入り交じったものであろう。


映像の世紀バタフライエフェクト 「ベルリンの壁崩壊 宰相メルケルの誕生」2022年4月18日